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PK-PD/TDモデリングを用いた個別化医療実現への貢献

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サターラの日本チームが京都薬科大学 薬物動態学分野 助教である河渕真治先生に初めてお会いしたのは、河渕先生が同大学の博士課程に在籍されている時でした。当時、当社のソフトウェア・トレーニングコースに頻繁に参加されており、そのときの積極的に学ぶ姿勢は強く印象に残っています。そのときから当社製品をご自身の研究に活用する明確なビジョンをお持ちだったと思います。河渕先生の今日までの素晴らしい実績がそうした事実を何より裏付けています。現在、河渕先生は京都薬科大学にて学生指導に当たりながら、薬物動態・薬力学/毒性(PK-PD/TD)モデル解析を始めとするファーマコメトリクスを駆使した優れた研究に取り組んでいます。今回サターラは、優れた若手研究者のプロジェクトに光を当てるべく、日本第一弾として河渕先生にインタビューを行いました。

まず、近年取り組まれているファーマコメトリクス研究や発表論文についてご紹介いただけますか。

オンコロジー分野では、臨床アウトカム改善のため、5-フルオロウラシル(5-FU)の治療薬物モニタリング(TDM)が推奨されています。しかしながら、5-FU血漿中濃度の日内変動が、目標治療域の正確な予測のハードルとなっています。そこで近年私たちは、ラットの5-FU血漿中濃度データを用いて、概日リズムを評価可能な母集団薬物動態モデルを開発しました。この結果は、最適なTDM施行法の確立や投与時刻を考慮した5-FU投与設計法の開発に貢献できると考えています。このファーマコメトリクス解析の結果は、Journal of Pharmaceutical Sciences [1]に掲載され、ジャーナルウェブサイトにおいて注目論文として取り上げられました。また、他の研究では、抗がん剤によって誘発される骨髄抑制や神経障害などの毒性発現とその程度の予測に貢献し得るPK-PD/TDモデルの構築にも取り組みました[2, 3]。今現在は、制吐剤と抗がん剤との相互作用について検討し、最大限の有効性と最小限の毒性を両立する適切な用法用量の確立に挑戦しています。

[1] S. Kobuchi, et al., Population pharmacokinetic model-based evaluation of circadian variations in plasma 5-fluorouracil concentrations during long-term infusion in rats: a comparison with oral anticancer prodrugs. J. Pharm. Sci., 109(7), 2356-2361 (2020).

[2] S. Kobuchi, et al., Mechanism-based pharmacokinetic– pharmacodynamic (PK-PD) modeling and simulation of oxaliplatin for hematological toxicity in rats. Xenobiotica, 50(2), 146-153, (2020).

[3] S. Kobuchi, et al., Semi-Mechanism-based Pharmacokinetic-Toxicodynamic Model of Oxaliplatin-induced Acute and Chronic Neuropathy. Pharmaceutics, 12(2), 125 (2020).

サターラのソフトウェアやテクノロジーを貴学の研究プロジェクトにどのようにご活用されていますか。

サターラは、前臨床や臨床におけるPK-PD/TDを評価するPhoenix WinNonlinやPhoenix NLMEといった多機能で高品質なソフトウェアを提供しています。サターラのソフトウェアは、アカデミアや企業の研究開発の現場で多くのファーマコメトリシャンに広く普及し、データ解析に取り組むうえで使いやすいツールとして受け入れられている印象です。私たちの研究室では、ノンコンパートメントモデル解析、PK-PD/TDモデリング&シミュレーション、動物実験や臨床研究から収集されたデータの母集団解析を行う際に、PhoenixWinNonlinとPhoenix NLMEを使用しています。ソフトウェアだけでなく、サターラには私たちの新しい研究成果を発信する機会も提供いただいています。さらに、サターラからソフトウェアを使用したファーマコメトリクス解析の方法についてトレーニングを直接受けることができたため、知識や解析スキルのブラッシュアップにも役立ちました。サターラが提供するソフトウェアや学びの機会によって私たちの研究もスピードアップされ、個別化医療の実現に貢献できると考えています。

ファーマコメトリクスやバイオシミュレーション・テクノロジーについて、将来の理想像があればぜひお聞かせください。

はい、ございます。PK-PD/TDモデリング&シミュレーションといったファーマコメトリクス技術を用いることで、患者個人の臨床用量をより適切に設定することができると信じています。がん化学療法ではほとんどの薬剤において、投与量は体重や体表面積に基づいて決定されます。そして、重篤な薬物毒性が発現した場合、経験則に従って減量や化学療法の中止が行われます。その一方で、ファーマコメトリクス技術によって、患者さんに薬剤を投与する前に様々な投与量に対する薬物反応の定量的なシミュレーションを行うことができます。こうしたシミュレーションは患者さん個人に適した投与量の判断に役立ちますし、化学療法中の経時変化をシミュレーションした結果を可視化することで患者アドヒアランスの向上につながるかもしれません。

将来的には、PK-PD/TDモデルの構築が自動化され、日常の診療記録に基づいて自動的に改良されるのが理想だと思います。個々の病院が独自にモデルを構築し、医師とファーマコメトリシャンとが緊密に連携することで、各医療機関における個別化医療の実現に貢献できるのではないかと考えています。

日本ではファーマコメリクスを学んでいる学生がほとんどいないのが現実です。最後に、専攻や将来の職業を決め悩んでいる学生に対して、ファーマコメトリクスを学ぶメリットを語っていただけますか。

ファーマコメトリクスは、たとえば新薬開発や承認申請プロセスだけでなく、薬物療法の臨床アウトカム改善に焦点を当てた学術研究など、幅広く医療の発展に貢献しています。もしかすると、ファーマコメトリクスは薬物動態学の知識に加えて、数学、統計学、生理学や薬力学などの知識も必要とする難しい分野のように思えるかもしれません。しかし、薬剤の特性を効率的に評価し予測するには、ファーマコメトリクスのモデリング&シミュレーションは必須です。大学でファーマコメトリクスを深く学ぶことができれば、その知識やスキルを活かして製薬業界や大学、病院、PMDA(医薬品医療機器総合機構)をはじめとする規制当局、その他研究機関にファーマコメトリシャンとして従事することもできます。実際、私たちの研究室でファーマコメトリクスを学びスキルを身につけた学生が卒業後に製薬業界やPMDAで活躍しています。IT技術が発展するように、ファーマコメトリクスも日々発展しています。今日では、数理モデルに基づくハリケーンや台風の進路予測というように、天気に関する情報を手軽に得ることができます。それと同様に、将来、患者さんに薬物を投与した後の薬物反応をファーマコメトリクスに基づいて予測する技術が、新薬開発や個別化医療におけるスタンダードになるかもしれません。多くの学生がファーマコメトリクスに興味を持ち、それを駆使することで薬物療法を受ける患者さんの一助となることを願っています。

京都薬科大学 薬物動態学分野の紹介

京都薬科大学は日本国内において歴史と伝統のある私立大学の一つです。薬物動態学分野の担当は、栄田敏之教授、伊藤由佳子講師、河渕真治助教であり、薬物治療の最適化を目的として、薬物の体内動態と有効性・安全性の関係(PK-PD/TD)に関する研究を行っています。具体的には、抗がん剤、経口血糖降下薬などを取り上げ、医療機関との共同研究体制を構築して、基礎研究とともに、臨床研究を実施し、より高い有効性・安全性を得るための方法を検討しています。生理学的薬物速度論(PBPK)や母集団モデル解析を含むファーマコメトリクスアプローチを介して、治療効果や毒性の程度と経時的変化を推定し、患者個々に最適な投与設計法を提案するとともに、それらを予測できる新たなバイオマーカーも探索しています。

プロフィール : 河渕真治 先生

京都薬科大学薬学部薬学科、京都薬科大学大学院薬学研究科薬学専攻博士後期課程修了、博士(薬学)取得。薬剤師免許取得。2014年より京都薬科大学薬物動態学分野にて助教として教育・研究に従事。2015年 日本TDM学会 海老原賞「国際TDM会議」派遣賞、2018年 日本TDM学会 大日本住友製薬賞「TDM研究」優秀論文賞受賞。

大学院在籍時より、病態モデル動物を用いて抗がん剤、抗菌薬、生活習慣病治療薬等のPKとPD/TDとの関連性を定量的に評価するとともに、Phoenix WinNonlin、NLMEを活用したモデリング&シミュレーションに取り組み、薬物治療の個別化を目指して研究に勤しむ。
患者データを用いた母集団薬物動態解析も行い、臨床の問題点を基礎研究で検討するなど、基礎と臨床の両面からより良い薬物治療法の開発を目指す。

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