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小児用医薬品開発に対する日本のアプローチ:知っておくべき情報

安全性と有効性に優れた治療薬へのアクセスは⼩児患者にとって⾮常に深刻な問題です。小児に処方される医薬品の60~70%は適応外使用なのが現実です。⽇本で承認された新薬はそのわずか30%でしか⼩児適応を取得していません。米国やEUと異なり、日本には小児用医薬品の開発を義務付ける規制はありません。欧⽶と異なり⽇本では⼩児医薬品開発を義務付ける法制度は整備されていないものの,医薬品医療機器総合機構(PMDA)は国内の⼩児患者を対象とした医薬品開発を積極的に働きかけています。

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)

PMDA は新薬承認申請の適切な審査を確実に進め,⾰新的かつ有⽤な医薬品や医療機器の開発を推進しています。製薬企業とともに国内市場における新薬開発と上市の成功を⽬指しています。


図 1. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)

PMDA小児医薬品ワーキンググループ

PMDA小児用医薬品ワーキンググループ(WG)は、PMDA内のプロジェクトチームです。製薬会社から提出された小児用医薬品の開発計画や臨床試験データが、規制要件や倫理基準を満たしているかどうかを審査・評価します。

日本における現在の小児医薬品の規制

⽇本では⼩児臨床試験に関する倫理的、科学的な留意事項の指針となる枠組みがいくつか設けられています。 

  • 承認された新薬の有効性や安全性が市販されてから⼀定期間後に再審査される制度が設けられています。製薬企業に対して成⼈で承認を取得した医薬品を⼩児向けに開発するインセンティブを与える⽬的で、⼩児医薬品開発に対して再審査期間の延⻑が認められています。
再審査期間薬剤の種類
10年希少疾病⽤医薬品
製造販売後調査において薬剤疫学的⾸相を⽤いた評価の実施が必要な新医薬品
8年既承認の医薬品と有効成分の異なる新医薬品
4年既承認の医薬品と有効成分と投与経路が同⼀でそれ以外の⽤法⽤量が明らかに異なる新医薬品
既承認の医薬品との相違が軽微である新医薬品
4~6年既承認の医薬品と効能や効果が明らかに異なる新医薬品(先駆的医薬品や希少疾病⽤医薬品として指定済みの医薬品を除く)
特定⽤途医薬品
図 2. ⽇本における医療⽤医薬品の再審査期間(⼀部抜粋)
  • また、PMDA は⼩児集団に対する臨床評価に関するガイドラインを発出しています。例えば、ガイドラインでは10 ‐12 歳以上の⼩児は成⼈と合わせて評価可能であると述べています。
  • 新医薬品の薬価算定において⼩児⽤に承認された医薬品には⼩児加算を適⽤することで、開発企業に⼩児医薬品開発に対するインセンティブを付与しています。
  • 厚⽣労働省が設置した医療上の必要性の⾼い・未承認薬・適応外薬検討会議では⼩児を含む重篤・致死的な疾患を抱える患者のために未承認もしくは適応外薬の迅速な実⽤化を製薬企業に働きかけています。検討会議は、未承認・適応外薬の医療上の必要性を判断した後、製薬企業に当該品の開発と新薬申請を要請します。また、公知申請への該当性を評価することで承認審査を迅速化しています。
  • ⽇本⼩児総合医療施設協議会は国内における⼩児領域での治験等を推進する⽬的で⼩児治験ネットワークを設置しています。
  • 臨床早期段階の結果から極めて⾼い有効性を期待できる新薬の審査期間を短縮することで⼩児を含む患者のアンメット・メディカルニーズに対応する先駆け審査指定制度が法制化されています。

図3. 先駆け審査指定制度の概要

日本国内における⼩児医薬品開発の現状

以下のような背景で⼩児医薬品開発への取り組みに後ろ向きな製薬企業も依然として⾒受けられます。

  1. ⼩児を対象とした治験実施に対する倫理的な懸念
  2. 限られた市場規模
  3. ⼩児医薬品開発のコスト
  4. ⼩児疾患の希少性

バイオ医薬品を含む全ての新薬開発において⼩児患者への適⽤に向けて有効性と安全性が確保される⼩児⽤量を特定する試験の実施が要求されています。しかし、⼩児患者の治験への組み込みや⼩児集団に適切な⽤法⽤量の設定に関する課題に多くの製薬企業が直⾯しています。

各国の規制当局との連携

⽶国⾷品医薬品局(FDA)における Pediatric Study Plan(PSP)や欧州における Pediatric Investigation Plan(PIP)の提出要求は国内の製薬企業に⼩児医薬品開発の重要性を改めて認識させています。

また、PMDA の他国の規制当局間で Pediatric Cluster と呼ばれる会議が実施され、⼩児集団に対して有効性と安全性に優れた新薬の開発と承認を推進する取り組みが進んでいます。

日本国内新薬開発における定量的モデリング&シミュレーション⼿法の重要性の⾼まり

近年、医薬品開発における定量的モデリング&シミュレーション⼿法の活⽤が注⽬を集めています。2020年の PMDA新薬申請では⺟集団薬物動態(PPK)もしくは⺟集団薬物動態・薬⼒学(PPK/PD)解析が全体の〜70%(29/43)、曝露反応(E‐R)解析が50 %(22/43)でそれぞれ利⽤されるなど、M&S の活⽤が着実に進んでいます。

さらに、2019年度から 2020年度までの低分⼦化合物の新薬申請の〜40%(2019年度︓9/25、2020 年度︓9/23)において⽣理学的薬物速度論(PBPK)解析が利⽤されていました。以上の状況から⽇本国内でも PPK や PPK/PD、E‐R そして PBPK 解析といった M&S ⼿法の普及は⼤きく進んでいると⾔えます。PMDA も国内における M&S ⼿法を利⽤した申請の増加に対応するためプロジェクトチーム(M&S PT)を近年設置しています。また、PMDA と製薬企業間のコミュニケーションを円滑化する⽬的で M&S ⼿法に関連した複数のガイドラインが発出されています。

M&S PT は M&S のような⽐較的新しい⼿法の活⽤推進と国内の医薬品開発における重要性を認識させるうえで⾮常に重要な役割を果たしています。

⽇本そして APAC 地域における⼩児医薬品開発の未来

以下のような取り組みや動向は、⽇本を含むアジア環太平洋(APAC)地域における⼩児医薬品開発の推進に貢献すると考えられます。

  • 希少疾病に対する関⼼の⾼まり
  • 国際的な協⼒体制の構築
  • 患者中⼼の医薬品開発の重要性増⼤

総括

安全性と有効性に優れた⼩児医薬品の開発推進を⽬的とした PMDA による規制枠組み改善の努⼒は特筆に値します。⽇本を含めた APAC 地域全体における⼩児医薬品開発の推進には⺠間や政府、アカデミアの協⼒強化が不可⽋です。

サターラでは当該地域の製薬企業に対して⼩児医薬品を含めた承認申請を⽀援するコンサルティングサービスを提供しています。当社の専⾨家は試験デザインやプロトコル作成から M&S 解析、さらには規制当局との協議まで包括的な⽀援を提供します。

サターラの⼩児医薬品開発⽀援サービスの詳細にご興味あるお客様はこちも是⾮ご覧ください。https://www.certara.com/services/practice-areas/pediatric-practice/

参照文献

  1. Sakiyama M. Promotion of Pediatric Drug Development by Industry, Government and Academia – What Has Changed, What Has Been Done and What Is Necessary for the Further Progress? From the perspective of the PMDA. Presented at DIA. 2019. Available at: https://www.pmda.go.jp/files/000233569.pdf
  1. Sakiyama M. Paediatric Drug Development in Japan and International Regulatory Collaboration. Presented at the European Forum for Good Clinical Practice. Available at: https://www.pmda.go.jp/files/000244626.pdf.
  1. Pharmaceuticals and Medical Devices Agency. PMDA website. Available from: https://www.pmda.go.jp/english/
  1. FDA. Noninferiority clinical trials to establish effectiveness: guidance for industry. Silver Spring, MD: US Food and Drug Administration; 2016 Available from: https://www.fda.gov/media/134069/download.
  1. Certara. Japan’s Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA) Renews Licenses of Certara’s Software for Evaluating Regulatory Submissions. Certara; 2019. Available from: https://www.certara.com/pressrelease/japans-pharmaceuticals-and-medical-devices-agency-pmda-renews-licenses-of-certaras-software-for-evaluating-regulatory-submissions/
  1. Tsubouchi H, Hisaka A, Yamada A, et al. Activity and perspective on quantitative modeling and simulation in Japan: Update from the Pharmaceuticals and Medical Devices Agency. CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2020;9(12):679-681. doi: 10.1002/psp4.12868. Available from: https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/psp4.12868
  2. Kijima S, Yoshida S, Ochiai Y. Activity and perspective on quantitative modeling and simulation in Japan: Update from the Pharmaceuticals and Medical Devices Agency. CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2022 Dec;11(12):1552-1555. https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/psp4.12868

筆者について

Mayumi Hasegawa, PhD
By: 長谷川真裕美(薬学博士)

長谷川真裕美(薬学博士)は臨床薬理学,ファーマコメトリクスの分野を中心に18年以上にわたって日本を含むアジア太平洋地域における医薬品開発に携わってきました。

長谷川氏は,がん/免疫,関節リウマチ,心血管系といった治療領域における初期および後期開発プログラムの豊富な経験を有します。これまで米国 FDA,EMA,PMDA を始めとする規制当局との幅広い交渉経験があり,複数の新薬承認申請や臨床薬理関連の照会事項対応を支援しています。専門分野は開発戦略やモデルを活かした医薬品開発(MIDD),免疫原性,バイオマーカーです。患者アクセス向上の観点から開発品の価値を最大化するため,MIDD を活用した革新的な戦略の立案とファーマコメトリクスの活用に取り組んでいます。また、様々な高分子および低分子化合物の分析法開発およびバリデーションの経験も有しています。

サターラ入社以前はブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS) 社にて臨床薬理およびファーマコメトリクスを担当し,国内臨床開発部門のチームリーダーを務めていました。BMS 在職中には ICH E11A Pediatric Extrapolation Experts Working Group において日本製薬協 を代表したトピックリーダーも務めました。また,武田薬品工業の CMC 部門において分析法開発を担当した経験も有します。東京大学薬学部で学士号と同大学院にて修士号を,武蔵野大学で薬学博士号を取得しています。博士課程では生物製剤におけるファーマコメトリクス解析を用いた投与量最適化を研究テーマとしていました。

サターラでは,APAC 地域の製薬企業に対する医薬品開発プログラムや承認申請のコンサルティングを担当しています。(拠点は日本、東京都です。)

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