定量的システム薬理学

QSP:定量的な薬物データと作用機序の知見の統合

QSP (Quantitative Systems Pharmacology) にとって最大の課題の一つであると同時に、最大の機会となり得るのは、第 2 相臨床試験における医薬品開発の失敗が続く現状です。患者集団を対象として開発化合物を投与する最初の試験は、通常、第 2 相臨床試験において実施されます。多くの医薬品開発計画において、この開発相での失敗がみられます。実際に、第 2 相試験に移行した新規化合物の約 80% は開発中止に至ります。この失敗の主要な原因として、医薬品の有効性もしくは安全性に問題が発生したことが挙げられます。この失敗する割合の高さはり、多大な費用と時間を損失していることを意味します。QSP によって現行のモデリング&シミュレーションの科学技術を強化することで、この課題に取り組むことが可能になります。

QSPについて

QSP とは、医薬品研究開発の生産性を向上させる大きな可能性を秘めた近年盛んに研究が進められている新領域です。実際に、大手製薬企業の多くが QSP に投資しています。QSP により、ゲノミクスおよびプロテオミクスのデータといった、現在利用可能な莫大な情報の活用が可能になると期待されます。

QSP では、コンピューテーモデルと実験データを組み合わせることにより、医薬品、生体システム、および病態過程の関係を探索します。この新興分野では、定量的な薬物データが作用機序の知見と統合されます。QSP モデルは 薬物が時空間的に細胞ネットワークをどのように変化させ、その変化とヒトの病態生理学が相互にどのように影響を与えあうかを予測します。加えて、QSP は完全に病態をコントロールする目的で併用療法を必要とすることが多く見られるがんや免疫疾患、代謝性および中枢神経系疾患などの、複雑かつ不均質な治療領域の評価を促進します。

QSPの利点

  • Precision medicine (高精度医療) を支援: 従来、多くの疾患に対して、単一的な治療方法が適用されてきました。つまり、同じ疾患を抱える全患者に対して、同一のアプローチ (one size fits all) に従った治療がなされてきました。しかし今日、多くの疾患が実際には、患者集団において明確な特性を有する亜集団が罹患する多種の異なる疾患であることが認識され始めています。QSP を活用することにより、スポンサー企業は開発計画の成否を左右する第2相臨床試験を実施するに、どのような亜集団に含まれる患者を試験の対象とするかを合理的に計画することができます。これは第2相試験の成否の分かれ目となり得ます。
  • 医薬品の有効性立証の成功確率を増大:QSP は PBPK から得られる知見に基づいて進められます。作用部位における薬物量を把握した後、薬理作用の発揮に向けて、「薬物曝露によってどのように細胞シグナルが調節されるのか?」、「特定臓器においてどのような薬理作用が発生するのか?」といった課題に対応することによって、薬物の有効性に関わる機序に対する知見を得ることができます。
  • 毒性の作用機序に関する知見を獲得: QSP は様々な臓器における薬物曝露量を決定することで、発生し得る副作用を予測します。このアプローチにより、薬物動態 (薬物曝露) から薬力学 (薬理作用) へのトランスレーション (橋渡し) が実現します。
  • 「What-if」シナリオの検討: QSP は創薬の早期段階から使用可能であり、疾患の生物学的経路および決定因子の同定を支援します。例えば、「薬理学的プロファイルがより優れているのは薬物 A と薬物 B のどちらか?」「薬物 A が生物学的経路 Z より Y に強い影響を及ぼす場合、その有効性は生物学的経路 Y より Z に強い影響を及ぼす薬物 B を上回るか?」といった疑問の解明が可能です。QSP モデリングは、臨床試験の実施や創薬段階における非常に早期のリード化合物の最適化の推進を必要とせずに、多様な What-if のシナリオを評価することによって、薬物の潜在的な有効性を決定することに貢献します。
  • 新規医薬品の創出を支援: 医薬品業界では、「オミックスサイエンス」(ゲノミクス、プロテオミクス、およびメタボロミクス) において現在生成されている莫大なデータを活用するための手段として、QSP に注目しています。今日、ここ数年の間生成だけされていた膨大なデータへのアクセスが可能になっています。QSP モデルおよびその他のモデリング&シミュレーションツールの使用は、この新たなデータを医薬品研究開発に取り入れることにより、新規医薬品の創出を支援します。

免疫原性に特化した QSP コンソーシアム

2017年初頭、当社は Quantitative Systems Pharmacology (QSP) Immunogenicity Consortium (定量的システム薬理学・免疫原性コンソーシアム) を新たに設立しました。大きな成果を挙げてきた当社の Simcyp® コンソーシアムをモデルとする QSP 免疫原性コンソーシアムは、業界初の試みとなっています。このコンソーシアムでは、医薬品業界を牽引する製薬企業が競争前の基礎研究段階の環境に集まり、生物製剤の免疫原性や、多様な患者集団における薬物動態、有効性および安全性に与える影響を予測する Immunogenicity Simulator を共同開発することを目的として設立されました。

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