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プロジェクト・オプティマス (Project Optimus)は、米国食品医薬品局(米国FDA)のOncology Center of Excellence(OCE)によって提言された新たな取り組みです。この提言では、がん治療薬の開発企業に対して開発中により幅広い用量に対する有効性を評価させ、ピボタル試験の用量設定に最大耐量(MTD)を用いるアプローチからの脱却を促しています。

このブログでは、MTDアプローチの概要と、なぜ今米国FDAが現状を打破し、プロジェクト・オプティマスを推進しようとしているのか、その背景を説明します。

最大耐量(MTD)に基づく用量設定の問題点

MTDは、患者を対象とした初期の試験において用量を漸増させることで決定されています。3名の患者コホートのうち、2名が重症、または生命を脅かす毒性(用量制限毒性、DLT)を発現するまで用量を徐々に増加させる試験によって決定される用量をMTDと定義しています。ピボタル試験において最大の耐用量を選択するアプローチは、殺細胞性抗がん剤が開発の主流であった時代から引き継がれてきました。これは、がん治療薬を早く患者さんに届けたいという願望と、より高用量の薬剤がより優れた治療効果を発揮するという固定観念を反映しています。

その一方で、がんの分子標的治療薬の場合、標的分子よりも過剰な量の薬剤を投与しても抗腫瘍活性は向上せず、逆にDLTや複数回の治療サイクルに対する長期的な忍容性の問題が発生するリスクがあります。

分子標的薬は、殺細胞性抗がん剤が6カ月間に渡って毎週投与されるのとは異なり、何年にもわたり毎日投与される場合もあります。したがって、分子標的薬の場合、相対的な忍容性、特に長期的な忍容性と継続的な低毒性に対する耐性発現が問題になります実際のところ、患者さんへの用量設定にはより丁寧なアプローチが必要であり、米国FDAもこの点に変化の必要性を見出しているのだと思います。

過去に私自身が米国FDAのレビュアーを務めていた際には、患者さんが治療に耐えられないことが明白であるにもかかわらず、薬剤の減量を何度も繰り返した末に望ましい結果に達したと報告する治療薬の承認申請を審査してきました。しかし、開発段階でより低用量での評価が検討されなければ、得られた知見を承認時における最適な開始用量に反映させることは極めて難しいでしょう。

つまり、MTDアプローチは単純そうに見えて、実際には最適用量の決定に多くの時間と労力を必要とするのです。

プロジェクト・オプティマス提唱のきっかけ

分子標的薬の用量設定は、2013年に当時承認された薬剤で気がかりな毒性が報告されて以降、米国FDAで繰り返し議論されてきました。さらに、複数の分子標的薬の新薬承認申請審査において高い割合で減量や一般的な忍容性が認められない傾向が確認され、承認後に用量設定試験の実施が要求されました。

2013年以降、米国FDA、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国がん研究協会(AACR)、Friends of Cancer Researchは、論文投稿だけでなく、多くのワークショップを主催し、用量最適化戦略の必要性を議論してきました。プロジェクト・オプティマスは、これらの長年に渡って繰り返された知識の習得と議論の成果といえます。残念ながら当時のワークショップや論文投稿は企業に対して開発初期段階における用量の評価手法に意味のある変化をもたらすことはありませんでした。そこでOCEは、スポンサーが従うべき枠組み、そして最終的には要件を提示する必要があると考えました。

プロジェクト・オプティマスの枠組みは、スポンサーが早期段階の開発と用量設定に取り組む中で生物学的至適用量を決定するのに役立ちます。場合によっては、有効性および安全性を評価するピボタル試験の用量を選択するために、複数の用量を用いた無作為化試験が必要になるかもしれません。スポンサーによっては、用量や曝露と有効性の関係性を確立させることに負担を感じるかもしれません。しかし長期的には、このようなデータは、開発後期になって用量の範囲を拡大させる必要性が生じたときに非常に有用となり、結果として患者とスポンサーに利益をもたらします。

現在のがん治療薬のパイプラインが受ける影響

プロジェクト・オプティマスが現在のがん治療薬パイプラインに与える影響を明確に述べることはまだできません。しかし、用量の最適化が不十分な薬剤や用量設定の根拠に乏しい薬剤は、資金確保や現状の開発スピード維持が困難になる可能性があります。米国FDAは新薬臨床試験開始申請(IND)時にスポンサーに対して用量や投与レジメンの正当性に関してより多くの情報を要求する傾向をますます強めており、その結果、有効性を評価するピボタル試験の開始遅延が生じています。このようなスケジュールへの影響により、一部のハイリスクな開発計画(例えば、競争の激しい適応症の治療薬開発においてリスク・ベネフィットの優位性がごく僅かな開発品)は継続が困難となるかもしれません。このような競争力に乏しい開発計画が中止されることで、開発環境における淘汰が進む可能性があります。一方で、最適な用量が決定されるまでは、複数の適応症や特定の併用療法に拡げたコホートの評価を開始するにはリスクがあるため、必要なリソースを集中させる戦略が必要となるかもしれません。現在、治験中の薬剤数が飽和状態にあることを考えると、この展開はより有力な開発計画に多くの患者さんを参加できるようにする救いの手となるかもしれません。To learn more about what steps you should take regarding your upcoming oncology clinical trials, please watch this webinar: “What Oncology Drug Developers Should Expect from the FDA’s Project Optimus”.

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