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バイオシミュレーションとAIを活用し、製薬企業が直面する研究開発生産性の課題を解決するには

医薬品開発には骨の折れるほど時間がかかり、気の遠くなるような費用がかかります。

スティーブン・ポールが2010年に発表した論文にて、新薬の開発には18憶ドル(1.8billion USD)かかり、発見から承認までに平均13年かかると推定しています。 医薬品開発は基本的に複雑でリスキーなプロセスであり、規制当局の厳しい監視や要件に対応する必要があるため、こうした莫大な投資が発生するのです。

それ以来、データウェアハウスや電子申請フォーマットなどのデジタル・ソリューションを通じてこのプロセスを合理化しようとする善意の努力にもかかわらず、製薬会社の生産性は下がり続け、コストは上昇しました。Drug Discovery Todayに最近掲載された調査によると、大手製薬会社の承認薬1つあたりの平均支出額は現在61.6億ドル(6.16 billion USD)とされています。現在、研究開発生産性がプラスになっているのは大手製薬企業16社のうち9社のみで、残りは合併・買収によって相殺されただけで生産性はマイナスです。

同時に、製薬業界は薬価に関してかつてないほどの精査を受けています。特にインフレ削減法(IRA:2022年8月施行)は、薬剤費の責任を、新薬の受益者から医療保険制度およびメーカーへと転嫁しました。特筆すべきことは、この法律により米国連邦政府が初めて価格交渉を行うことができるようになったことです(スポンサーはIRAをどのように活用するべきかについては、このホワイトペーパーをお読みください)。

生産性の低下と迫りくる価格設定への監視の二重苦は、新薬を心待ちにしている患者さんに新たな治療法を提供する機会の脅威となりえます。アレックス・ザボロンコフは、製薬企業の研究開発生産性(crisis of pharma R&D productivity)の危機に関する分析において、この非効率性の根本原因を研究するためにはより多くの学者が必要であり、投資家は資金提供する医薬品プログラムについて、より多くの説明責任と透明性を求めるべきだと提唱しています。このブログでは、この脅威を軽減するために医薬品開発者が取り入れるべき2つの潜在的技術を提案します。

バイオシミュレーションのさらなる採用

医薬品開発に用いられる計算モデリング手法の1つであるバイオシミュレーションは、仮想臨床試験を実施することで研究者はさまざまなシナリオにおける医薬品の安全性と有効性のプロファイルを予測することができます。バイオシミュレーションは様々な方法で医薬品開発に貢献しています:

1. 臨床開発の合理化: バイオシミュレーションを活用することで研究者は生体系の予測モデルを作成することができ、高価で時間のかかる臨床試験を実施する前にさまざまな薬剤や投与量の身体への影響を評価することができます。これにより、臨床試験数を減らし、時間とリソースを節約することができます。例えば、生理学的薬物動態(PBPK)モデリング&シミュレーションは、CYP酵素が関与する薬物-薬物相互作用(DDI)障害を評価するための確立されたバイオシミュレーションアプローチです。規制当局の審査においてPBPKモデルをうまく適用することで、臨床試験の代替としてデータを使用したり、医薬品の添付文書に情報を提供することができます。ノバルティス社によるアスシミニブ(Scemblix®)の最近のNDA申請(図1)において、PBPKシミュレーションが10以上の臨床薬理試験に取って代わり、承認時に臨床薬理学的試験を追加することなく米国FDAによる2用量の追加承認に重要な役割を果たしました本ケーススタディについては、こちらのウェビナーをご覧ください)。


図 1. PBPKモデリングの影響と臨床薬理試験免除の概要。Image courtesy of Ioannis Loisios-Konstantinidis.

2. 臨床試験の成功確率の向上:開発中の医薬品の10品目のうち9品目は市場に出回ることなく、製薬会社は毎年数十億ドルの損失が出ているといわれています。臨床試験のフェーズ3まで進んだ薬でさえ、承認されないことがほとんどです。企業は創薬、研究開発、これまでの治験にすでに何億ドルも投資しているため、こうした後期段階の失敗は特にコストがかかります。試験が失敗に終わる理由の1つには、策定した試験デザインが最適な水準まで達していないことが挙げられます。試験デザインを最適化し、試験の成功確率を最大化するために微調整すべき変数はたくさんあります。バイオシミュレーションは、さまざまな臨床試験デザインをin silicoで評価し、試験の成功確率を最大化するのに貢献します。試験中の薬剤に関する既存の知識をシミュレーションにて活用することで、試験エンドポイントを達成する確率を高めるための重要な情報を事前に得ることができます。

3. より早く失敗のリスクを察知する: 製薬会社の研究開発の生産性を高める最善の方法のひとつは、失敗する運命にある医薬品プログラムの開発をできるだけ早い段階で中止することです。サターラの専門家チームは、治療反応予測モデルと患者価値の統合指標 (Clinical Utility Index) を構築し、Sanofi Aventis社 が標準治療と競合する可能性がほとんどないことを理解するサポートをしました。Sanofi Aventis社の最高科学責任者兼医薬品イノベーション・承認担当エグゼクティブ・バイス・プレジデントであったフランク・ダグラスは、次のように述べています。「治療上の有益性と副作用の比率から、この化合物はエビスタほど有益ではないことが示されました。」ダグラス氏は、このバイオシミュレーションにより、後期臨床試験の費用である5,000万ドルから1億ドルを節約できたと推測しています。「バイオシミュレーションで予測していなければ、最終的に失敗したであろう薬剤の治験に多くの患者さんを参加させてしまうところでした。弊社は中止の判断を早い段階でできたことで、より成功の可能性の高い別のプロジェクトに切り替えることができました。」1

総じて、バイオシミュレーションは、新薬の発見と試験を最適化し、その有効性と安全性を向上させ、新薬の上市にかかる総コストを削減することで、医薬品開発に革命をもたらす可能性を秘めています。

AI技術の導入

人工知能(AI)は、膨大な量のデータを迅速・正確に処理してパターンを特定し予測するため、医薬品開発においてますます有用性が高まっています。

昨今、AIはあらゆるところで利用されていますが、サターラのAIアプローチは何が違うのでしょうか。

競合他社が一般向けのAIやアプリケーションに注力しています。一方サターラのAIソリューションは、技術、データ、業界専門知識を組み合わせ、ライフサイエンスのみに特化したAIプラットフォームを提供します。



当社のAIプラットフォームCertara.AIの、医薬品研究開発の生産性向上にどのように貢献するのか一部抜粋してご紹介します:

  1. 創薬: ある分子をさらに開発するためには、複雑な化学的、生物学的、物流的、計算上のデータを分析する必要があります。Certara.AI は医薬品開発における複雑なデータ型を理解することができるため、創薬研究者は平凡な計算分析や研究作業に費やす時間を減らすことができます。
  2. 臨床研究&臨床試験: 臨床試験チームが必要とするデータの80%は、PDF資料や論文など、非構造化コンテンツ内に存在しているといわれています。製薬企業の研究者たちは、社外・社内に散らばるコンテンツから手作業で情報を検索しており、この検索作業に多大な時間を費やしています。Certara.AIは生物医学文献のトレーニングを受けているため、手作業による検索作業を軽減し、チームが臨床試験を成功させるために必要な関連データの収集を容易にします。
  3. メディカルライティング: メディカルライターは、規制当局への提出に必要な規制文書のドラフト作成に膨大な時間を費やしています。AIが生成するコンテンツを利用することで、メディカルライターは初期のドラフト作成プロセスを効率化し、コンテンツの微調整や品質管理により集中することができるため、生産性の高い薬事関連文書の作成が可能になります。

医薬品開発にかかるコストは上昇の一途をたどっており、製薬業界が患者のアンメット・メディカル・ニーズに対して革新的な治療法を提供する妨げとなっています。医薬品研究開発の真の変革には、持続可能な生産性向上を達成するためのイノベーションモデルの抜本的な転換が必要です。バイオシミュレーションとAI技術を取り入れることで、業界は生産性を向上させ、より安全で効果的な医薬品を患者に提供し続ける能力を維持することができます。

参照文献:

  1. “I Zing the Body Electric.”Forbes.com [serial online]. 2002年10月7日. Available at: https://www.forbes.com/asap/2002/1007/054.html
  2. Loisios-Konstantinidis I. Physiologically-based Pharmacokinetic Modeling & Simulation to support ASCIMINIB NDA submission & inform drug product label. Certara. 2023年8月7日. Accessed 2023年10月24日. https://www.certara.com/on-demand-webinar/physiologically-based-pharmacokinetic-modeling-simulation-to-support-asciminib-nda-submission-inform-drug-product-label/.

筆者について

Suzanne Minton
By: スザンヌ・ミントン

Suzanne Minton 博士は、コンテンツ戦略担当ディレクターとして、サターラのThought Leadership Programの基盤である、教育的かつ説得力のあるコンテンツを開発するライターチームを率いています。マーケティング部に10年以上勤務しながら、感染症、がん、薬理学、神経生物学の生物医学研究にも従事しています。スザンヌはデューク大学で生物学の理学士号を、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で薬理学の博士号を取得しました。

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